釣りを恨んでも、僕の頭はやはり釣りのことばかりを考える。
なんせ、僕が釣りさえしなかったら、こんな事にはならなかったのだ。いや、この世界にやってくることを、僕はどこかでわかっていた。
つまり、どうようもない釣りバカ。ついでに、思い出したくもない記憶も考える。なら、ただのバカだ。なら、頭が良いやつはどうなのかといえば、現実から目をそらすのが上手いのだ。とくに、自分の過去から。
それにしても、なぜあいつは。あの巨大魚は僕の過去を知っていたのかが気になる。探偵?ふざけるなよ。そんなこと、どこにでも言いふらしたつもりもないし、SNSだって黙ってるっていうのに。
ちなみに、僕のSNSでの職業は「無色ニートの借金王」だが、それはどうでもいい。というか、こうなるともう止まらない。冗談じゃすまない記憶ばかりがあふれてきて、笑えもしない。
嫌な記憶はいつも封印して、くだらないジョークですませたい僕の人生も、やっぱり限界というものがある。馬鹿げたノースフェイスのステッカーを張って閉じ込めていたポリバケツの腐った生ごみが溢れだしてきた匂いがする。
その匂いで思い出すのは、あの川のこと。
僕は、確か車に乗って細い山道を走っていた。
乗っていたプロボックスには、いつも釣り竿が積んであったのを思い出す。プロボックスはあの業界ではとても重宝されていた。目立たないし、一見して誰もが土建屋だと思うから、地方で仕事をするときは大抵この車だった。
その荷台に積んでいたのは、カメラバックの中におさめられたニコンとコンデジ、幾つかの望遠レンズと単焦点レンズ。それに装着する軍用のナイトビジョンアタッチメント。さらに双眼鏡、ソニーのビデオカメラ、GPS端末。そして、ダイワのパックロッドだ。
こんな怪しげな機材に囲まれて、ロッドもきっと気まずかったはずだ。けれど、僕はいつもこのロッドを連れて仕事に行っていた。
その日向かっていたのは夕張方面。
季節は、確か夏───いや、その少し前だった気がする。
シャッターや廃屋の目立つ財政破綻した町をすぎ、炭鉱団地の薄気味の悪い廃墟を横切ったあと、道路ぞいの「メロン直売所」の看板を幾つも通り過ぎた。フロントガラスにぶつかる虫が白い点になって、日高五郎のラジオがうるさくて、そして、とエンジン音にまぎれて、窓の外からエゾ春ゼミが鳴き始めていた。山道を走っていると、そこで小さな渓流があるのを見つけた。
あれは石狩川の支流。
コメント
いつも楽しく拝読してます。
今後の展開が楽しみで仕方ありません。
今回の冒頭部は、野外で励んでるカップルを撮ろうとしてる変態の話かと思いましたよ。それにひけを取らない凄い話でした。
青か○を頭に置いてもう一度読み返してみましょう。
さあ。
ワイズストリームさん>いつもありがとうございます。
今後もお話は続いていきますよ。
そうです、そんな感じっぽいですよねw
青〇だったほうが断然マシだったでしょうねw