「釣神 フィッシングマスター1」は、ただの釣り映画じゃありません。
トップアングラーでありアメリカのトーナメントを荒らしまくる通称「バス・イレイザー」こと黒神レイが帰郷先で巻き起こるバス釣りバトルに挑む、友情あり、涙あり、トンデモフィッシングありのブラックバス系Vシネ。悪いぞー、こいつは悪い!
というわけで、釣り好きなVシネファンのみなさまお待たせしました。
いつやるんだと言われてきた「釣神 フィッシングマスター1」のレビュー記事でございます。
伝説の「Vシネ・バスフィッシング」
この作品が作られたのは2001年。もうそうとう昔の作品。
しかしその噂は常々聞いており
「なんか絶妙におもしろくない」
「めちゃくちゃ釣りが変」
という伝説がまことしやかに噂され続けていた作品です。
なので大変に興味があった、釣りが好き、しかも変な映画好きの僕としては。
というか、そもそもなんでバスのVシネとかあるの?
と思うでしょうが、この頃時代はバスブームの最中。
同じような時期に作られたあの釣りバカ日誌のアニメですら、第一話はバス釣りからスタートしたんでね。はい、そういうレベル。
この構図は各メディアでも当然のこととなり、芸人も釣りネタといえばブラックバス。バラエティ番組でもバス。そして木村拓哉もバスフィッシング。つまり、イケてる趣味はバスフィッシングであり、釣りがちょっとダサい趣味という概念を覆した一代ブームだったのです。
というわけで、当然バス関連の作品が出てくるのも普通。
なんですが、まさかの「Vシネ」
しかも主演があの本宮泰風。
そう、皆様ご存知、あの「日本統一」シリーズで主演をし、ネオVシネ四天王の一人、あの本宮さんが主演ですよ。
日本統一見たことない人でも、この名前だけは知っているVシネ界伝説のシリーズ。
というか、シリーズがあまりに長すぎてVシネ界のワンピースと勝手に呼んでますが、とにかく大ヒットシリーズなのは間違いない。これがVシネの歴史を変えたと各所で言われてますからね。
となると、なんかひょっとして山口祥行さんも出てきてバスで日本統一しようとしてるんじゃないか?
そして小沢仁志さんが
「いかんでぇ!それだけは絶対いかんでぇ!」
とか言ってくるんじゃないだろうか。この後侠和会に入るんじゃないだろうか!と思うじゃないですか?
しかーし!今回の小沢さんはなし!代わりにミッキー・カーチスさんが登場!
そして何を隠そう、ミッキーさんはそもそも近くに住んでいる。
御年80を超えて短編を撮っている。なんという人だ。
そして私の大好きなあの映画「ガンヘッド」の名言「銃で遊ぶなっつってんだろー!ツキが落ちんじゃねーか」は未だにブルックリンと同じく守っています。銃持ったことないけど!ジェロニモォー!
そして初代Vシネ界の名優・安岡力也さんも登場!なんか眼帯をつけてる、とんでもなく濃いルアービルダーとして出てくる。
そしてVシネには欠かせない永倉大輔さんも登場!
つまりこいつはVシネだぁ!おもいっきりVシネだぁ!
ただし、日本統一よろしく、本宮さんはヨコハマ出身の不良でヤクザを壊滅させているわけではない。
彼は通称「バス・イレイザー」と言われるトーナメント荒らしの伝説のバサー。
そして今回本宮さんが壊滅させたと噂されているのが、なんと湖のバスなのである。
バスを壊滅させた男?バス・イレイザー 黒神レイ
というわけで、もうこの時点で気になった方はU-NEXTで配信されているので実際に見てもらったほうがいいですね。
ちなみにつまらなくても、配信なんで速攻見るのやめればいいだけ。便利な時代。Vシネ見るのも勇気がたいしていりません。
で、本作のあらすじはいたってシンプル。
アメリカに渡りトーナメントを荒らしていた伝説のバサー、黒神レイが地元に戻ってくるところから始まります。
この黒神レイ、実はアメリカでは「バス・イレイザー」という信じられないほどカッコイイ渾名で呼ばれており、トーナメンターたちに恐れられていました。(ちなみにレイは勝手にこう呼ばれているのが気に入らない)
その名前の意味とは、イレイザー・・・つまり、バスを消すもの。
彼がトーナメントに出場すると、その湖のバスを根こそぎ釣り湖から消してしまうと言われたことから、この二つ名で呼ばれていたわけですよ。
つまり、今回の本宮さんはヤクザを壊滅させた不良ではありません。バスを壊滅させたアングラーです。なんて恐ろしいんだ。
そんな本宮さんが地元に帰ってきた理由というのが、なんと湖でバストーナメントが開催されるという話を聞いたからだ。
その湖では、バスが大量に放流され、生態系が崩壊寸前。
なんと、その裏には刀根組というヤクザが絡んでいた。
ヤツらの目的は「湖をレジャーランドに変えて儲ける」こと。
しかも、村の遊漁権を独占するため、不正な釣り大会を計画しているではありませんか!
だが、この話はまだ序章。
刀根組が送り込むバスプロは、なんとレイの幼なじみ、早川直樹。
直樹は借金まみれの父親を救うため、さらには妹が人質に取られるという地獄のような状況で、刀根組の命令に従わざるを得ません。友情か、それとも家族か――直樹の心は板挟みに。
一方、黒神レイはこの不正な大会を阻止し、友を救い、湖の平和を取り戻すために立ち上がります。さあ、始まるのはバスとバス、そして人間と人間、バサーvsヤクザの戦い!
という熱き流れ。
つまり、利権!ヤクザ!バスフィッシング!
そして組お抱えのロコ・アングラーvsアメリカ帰りのトーナメンターの対決。
つ・ま・り
組お抱えの雀士と流しの天才雀士の闘いを、バスでやってるわけでして
事実上バスフィッシングでやる麻雀系Vシネ。
この流れの中、おまけにヤクザが一生懸命バスフィッシングを頑張ってるというのが良い。
おいおい、ヤクザがバスとか釣らんだろって?
いやいや、ヤクザだってバスを釣る。それがこの時代。
まさしく2000年初頭のバスフィッシングを舞台にしたVシネ的バスフィッシングドラマ!
おまけにチューヤンが出てくる!有吉ぃ!チューヤン出てるぞこのドラマぁ!そして本宮さんの奥さん松本明子だぞぉ!
という進め!電波少年!な空気もあるこのドラマ、あなたそりゃ見るしかないでしょ。
そして、はっきり言いましょう。
一般の皆様にとっては、絶妙につまらない。
そして、役者さんが絶妙に釣りが下手。
だがしかし、それがどうした。
今この時代、あの頃を懐かしむ人々、そしてVシネやB級映画好きの変人の方々にとっては、あまりにも価値ある一本。むしろ上手い釣りとか見たくない。そのほうが盛り上がるだろ!と、僕は熱く語りたい。
という、普通の釣りシネマでは満足ができない、Vシネが好き、変な映画が好きなあなたにお送りする、極上のバスフィッシングバトルVシネとなっております。
濃すぎる釣神 フィッシングマスター1の見どころ
この映画、普通の人にはとってもつまらない。
しかし、あの時代の空気感、そしてVシネやB級映画好きにはたまらないポイントが多数あるのが必見。そしてツッコミどころは当然ながら、なかなか考えさせられる設定なども盛り込まれており、個人的には大変好きな作品ですよ。
1. スピニングで全てを投げる
アングラーとして本作最大の見どころは、あらゆるルアーを「スピニングで投げる」ところでしょう。
逆にもう、なんか男らしいですよ。
あらゆるハードルアーをスピニングで投げまくるんですもん、もうカッコイイですよ。
ベイトタックルなんて使うものか、クランクだろうがスピナーベイトだろうがスピニングさえあれば良いというハードな釣りに痺れる。そうさ、男なら黙ってスピニング。ラインはもちろん8lb。
とはいえ、ベイトは投げるのが難しいので、やはり演技的にもスピニングが最適であるという判断なのかも。そのあたり、下手にベイトで投げられるより全然良いという見方もできます。
他にも色々とおかしな点が見どころと化す本作。
一体いくつ変なところを見つけられたかなゲームを始められそうなほどあるので、そういった所を探してみるのも良い。ちなみに僕はトーナメントなのにボートの上にあるロッドの半分がリール無しなのが好きです。
眼帯ルアービルダー安岡力也
本作に登場する眼帯のルアービルダー、安岡力也は必見ですね。
なんで眼帯しているのかわかりませんが、とにかく濃い。
釣り吉三平に出ていてもまったく不思議ではない、むしろなんか居たろこのキャラという出で立ち。
ちなみに釣り吉三平で眼帯をしていたのはゆりっぺだった記憶。
ちなみにこの力也さん、実は黒神の親父さんとは友人同士。
そんな親父さんは、じつは初代バス・イレイザーと言われた人物。
力也さんいわく、違法放流されたバスを全て釣り尽くし、湖のバスを絶滅させたという伝説をもっているそうです。初代バス・イレイザー・・・恐るべし!!
なんか見たことあるけど見たことない懐かしの釣り道具
上州屋系の釣り道具にタックルはケンクラフトがメインで使われております。
主人公が使っているのも、他の人が使っているのもぜーんぶケンクラフトらしい。そうそう、ケン!フィッシュオン!
ということもあり、僕は主人公が使っているタックル、正直言ってよくわからない。
なぜなら、2000年以降僕はシマノかダイワかアブガルシアなのであり、ルアーならまだわかるけど、タックル全般となると・・・まぁバブルとっくに終わってるのもあったりとか、これ位の時にはもう上州屋&ケン・クラフトのタックルはスルーというか・・・・うん、ごめんね。
そのせいで「あのタックルまじで何・・・なんかありそうな形ではあるけどマジでなに・・・」という感じで見ておりましたが、きっと一部アングラーには「あーあれはー」となこともあるでしょうねうん・・・いや、ならないし忘れられてる可能性が高そうな上州屋&ケン・クラフトという絶妙な感じがまた良い味を出している。
2. バスプロ監修のトーナメントシーン
このVシネが面白いのが、2000年代のバストーナメントが再現されているところです。
というか、再現というより本物の映像が使われてます。
どう見ても地方の湖の大会じゃなくて、霞ヶ浦、北浦みたいな場所でバスボートが次々と疾走してスタートしていく様子が映ります。たぶんトーナメント映像を提供してもらって作ったんでしょうね。
そういう本物の映像が入ってる所とか、わりと好きですね。
けっこうチープではありますが、バスのトーナメントが映像作品として登場したことは無かったんじゃないかな?
それから釣りは雑なのにトーナメントは細かい所が結構リアル。
ただ、どうやら協賛がJCBBという団体・・・・え、なにJCBBって・・・JBじゃなくて?
と思ったら、どうやら上州屋のバス団体だったようですね。たぶん消えたな、僕が子どもの頃に。
とはいえ、なかなか映像が良いというか、絶妙に小さな大会な感じがたまらない。
そして主人公のレイは実はアルミで出廷するんですよ。
なんせアメリカから帰ってきたばかりで、日本にボートどころか車すら無さそうなんです。
しかし黒神は「オレは、このアルミってやつが好きなんだ、一体感があるだろ、釣りをしてるって」
と言ってるあたりが、バスプロ監修の成果が出ている。
そしてトーナメントのプラクティス風景があったり、実際の試合での駆け引きなんかもリアルに作られていて、なかなか「おおー、すげぇそこちゃんとやるんだ」と唸るところがあるんですよね。
データフィッシングVS天才のカン
本作に登場するチューヤンはなんと中国からやってきたバスプロ。
そして釣り場のデータを収集し分析するデータフィッシングを得意とするキャラなんですね。
いいですね、こういう眼鏡して「データが大事」というキャラ、やっぱ釣りバトルに必要なのはこういうキャラですよ。
そんなチューヤンに対して、黒神は天性のカンで魚を釣りまくる天才。そう、まさに正反対の二人。てかまて、そもそも魚探すらつかってないよレイ。
しかし、この二人は最終的にお互いを認め合うというか、うん。そう、データも大事、カンも大事。この2つがそろって釣りなんや!となるのが、あついねぇ、あついよ。いいよこういうの。
3. バス釣りに奮闘するヤクザ
そして本作最大の見どころは、とにかくヤクザが必死にバス業界に食い込んでるところ。
というかね、そもそもヤクザがバス用語を使いまくるのが面白い。
黒神の釣り風景を盗撮していた彼らは、コテコテのヤクザ事務所でそのビデオを見おわると、若頭が
「以上が黒神の狙っているストラクチャーがある場所だ、わかったかぁ!おおおい!!」
「うぃいいっす」
「オレたちは絶対に勝たなければならないんだ!いいか!ここにこれまでプラクティスでキャストした、場所、天候、リール、ルアーなどの情報がおさめられている!各自これを参考に作戦を立ててくれ」
「うぃいいす」
このように、ヤクザがやたらとバス釣り用語を駆使して進めていくドラマはあまりに面白い。
まず、ヤクザが事務所でストラクチャーとかプラクティスって言ってるのがオモシロすぎる。
というか、組の若い衆を集めてプラクティスさせてるってなに、オモシロすぎる。
しかし、やはりヤクザ・バサーたち。なんと彼らは違法にも湖にバスを勝手に放流していた張本人。
つまり、黒神の親父さんがイレイザーしたのにバスが増えていたのは、このヤクザたちのせいだったのだ。
そしてヤクザたちはバスを使い観光資源を作ったうえで、その漁業権を手に入れるべく八百長のトーナメントを開催。その中で、組お抱えのバサーを勝たせるべく、様々な仕掛けを繰り出してくる。
バストーナメントの不正がドラマに絡む
こうしてヤクザが仕掛けてくる不正の手法というのが、実はバストーナメントで実際に行われていた不正な手法そのもの。
有名なところでいえば、バスの腹の中に鉛玉を仕込む例のやつが出てますね。
さらに、このドラマのテーマというのがヤクザという悪しき存在として誇張して描かれている、日本のバスフィッシング界の闇ですよ。
あの頃のバスブームの闇がテーマになったVシネ
このVシネ、一見して低予算感すごいですけど、その裏にある設定がなかなか深い。
なにせ、作品のメインテーマが当時のバスの放流問題。
そしてバスが増えすぎた結果起きるであろう将来への懸念なんです。
2002年にこのテーマでドラマを作れたのは、やはりVシネというビデオスルーならではというか・・・うん、もしテレビや劇場ならできなかったかも。
そしてこのビデオがリリースされた翌年、琵琶湖で釣り上げたバスのリリースが禁止。
その次の年に「外来生物法」が改定され、バスは放流を完全に禁止。
という時代をふまえてみると、この時の、このテーマで作った本作は侮れない。
というか、そもそも本作の主人公が「バス・イレイザー」として、バスを根絶やしにするほどの腕前を持つという設定もまさに当時の問題を象徴している。
そして湖がバスで観光資源になっていくという姿と、その裏に潜む大量の密放流。
そして漁業権をめぐる問題などなど、当時のバスフィッシングブームの裏にある様々な問題が物語に深みを出しており、じつはそれ自体がオチになる。
うん、映像はアレなんだけど、この設定はなかなか渋い。
このドラマを見て、まさに当時の異常ともいえるバスブームの中子供時代を過ごした僕としては、ああそうだよそうだよ、こんなんだったよと頷きながらラストを迎えましたね。
というわけで、じつはフザケたドラマでもなんでもなく、当時の状況などを知っている人間からすると、よくまぁこの時代にここまで突っ込んだ内容でドラマが作れたなと感心するところが多いんです。
しかもバスプロが監修に入って、上州屋などから提供もうけつつコレをやったというのが深いなぁというか。
あのバスブームに浮かれる中、きっとコレはいずれダメになるという業界の危機感の現れであったりとか、この状況を変えなければ・・・という思いが見えてくるような気もして、意外に深いなぁとうなずきました。
釣りの表と裏の魅力が詰まった一作
「釣神 フィッシングマスター1」は、釣りをテーマにした作品でありながら、人間ドラマやサスペンス、アクションが詰まったエンターテイメント映画といえるでしょう。
しかし低予算Vシネクオリティ!そこは最初から言ってるんでまぁ良いんですけどね、このノリについてこれるやつだけが面白いタイプのVシネ。
とはいえ、僕としては黒神レイの活躍と早川直樹との友情の行方、そして刀根組との戦いが織り成す物語に、最後まで目が離せず、ラストのオチには「なんかそういうこと言いそうな時代感!うん!なつかしい!」でしたね。
まぁ実際のところ、後のバスに対する世間の風当たりの強さはこの頃からあり、その問題を無視していないドラマ作りに関しては「いいですねぇ、なかなかですよ!」と思わずにいられません。
というわけで、釣りファンにはおすすめの一作。
続編はテイストが変わるものの、結構面白いので見れる人は見てくださいね。
ちなみに配信サイトによっては見放題なんで、暇つぶしに見るのも悪くないですよ。