今回は増水時の魚の移動についての記事です。
今年も結構な台風が北海道を襲ってきたのですが、台風後の釣りにはいつも期待していまいます。
というのも、河川が増水した後は、きまって大型の魚が出現するから。
一体なぜかはわからないのですが、川の水が増えていると決まってランカークラスの魚が濁った水の中から現れるのです。
そのため、台風や雨の後の増水では、いつもより大きめのルアーを投げてランカーに警戒しているんですが、これが本当に来ちゃうから驚きです。
ただ、この現象は僕が通っている川だけでなく、日本中の川で見られる現象らしい。
渓流釣りをはじめてから、よくネットで情報収集するようになったんですが、台風が来ると決まって「台風開けチャンス!」と、こぞって釣りにでかけては、大型の魚をキャッチしている人を見かけます。
ということは、やっぱり増水した後には大型の魚が釣れるということか。なるほど。
と、納得はしたんですが、やっぱり気になってしょうがありません。
そもそも、なぜ増水した時ばかり大型の魚が釣れるようになるのか?
この記事を書いている最中も大雨で釣りにいけず、釣行の記事を書くこともないので、暇つぶしにこの問題について考えてみるとしましょう。
増水時に大型魚が出現するデータを探す
まずは魚の専門家である研究者のデータから漁ることにしました。
その結果見つけたのが、このブログではいつもお世話になっている北海道大学の環境生物科学部門の小泉先生の研究結果です。
その研究の中でも公益社団法人日本動物学会のZoological Science Awardを受賞したのが、増水時の魚の移動に関する研究です。小泉先生凄いよ。
で、その受賞研究が「釣り人は正しかった:河川氾濫時における魚類の支流避難仮説の実験的検証」というもの。
発表されたのが2014年なのですが、この研究は増水時に移動する魚の習性に関する研究。
しかし、そこにたどるまではまぁ様々な苦労があったようなので、ぜひこちらのリンクから研究の本文などをご覧いただければと思います。
支流に移動していく魚たちの生態
さて、小泉先生の研究結果をズバっと説明すると。
増水時に魚は支流へと入り込むが、そうではない河川もある。
ということらしいですね。
この研究では、試験放流する札内川(この川にはいずれ行ってみたい)で行ったものだそうです。
調査方法は、ダムからの試験放流のタイミングの前後で調査4支流にいる魚を調べるというものでした。
調査を行ったのはユクルベシュベ川、チセナイ川、オソノウシ下、パンケオトシノ川の4つです。
ダム放流前まではカジカが中心の支流だった
魚類の調査は電気ショッカーを使ったものだったそうですが、、ダムの放流以前まではカジカが中心の支流だったそうです。
ヤマメなどの姿も殆ど見られない状況で、見つかったのはニジマス、スナヤツメ、フクドジョウなどが大半。中には50㎝を超えるニジマスも釣れたのだとか。
ていうか小泉先生釣り好きすぎでしょ、ぜったいこれ研究中にめっちゃ釣りしてるよこれ。
まぁこの先生、幼少期からの釣り好きが高じて研究者になった人ですからね。
で、その小泉先生が調べた結果、4つの支流はそもそも魚の数自体が少ないような場所らしく、水深もかなり浅い場所。
つまり、釣り人からした普段はまず用の無い川ってわけですし、この結果なら僕も釣りにはいかないです。
ところが、その後ダムの試験放流が開始されると、この川の様子が一気に変わりはじめました。
ダムの試験放流により川の様子が一気に変わった
ダムの放水が始まり、小泉先生たちのチームは再び4つの支流を調査してまわりました。
おそらく小泉先生的には「電気ショッカーなんか投げ捨ててロッド出させてくれ」と周囲にもらしたかもしれませんが、そこは我慢して真剣に調査されたようです。
その結果、いままで釣り人には用無し河川だった4つの支流が一気に姿を変えたようです。
突然現れた大量のオショロコマ
小泉先生がまず驚いたのが、いままで一匹も見られなかったオショロコマが出現したことです。
出現したのはユクルベシュベ川。
捕獲されたオショロコマは11匹であり、いずれも本流に隠れていたオショロコマだと思われます。
しかし、洪水が終わった後には、支流に残っていたオショロコマは1匹だけになっていました。
つまり、オショロコマは水量が増えた時にだけ支流に入ってきていたわけです。
他にもカジカは2倍の数に触れ、フクドジョウの数は1匹から10匹に変化していました。
つづいてチセナイ川にも変化が。
洪水になった途端、22㎝のヤマメが捕獲。続いてニジマスも姿を現しました。
しかし、その他2つの支流に関しては目立った変化は無かったとのことです。
魚は避難場所にしている川がある
この小泉先生の研究により、確かに魚たちは支流を避難場所にしていることが証明されました。
しかし、それはいずれも魚も支流へと逃げ込んでいることを示しているわけではないようです。
人間にとっての避難場所なら、近くにあった支流にとりえず逃げ込むわけですから、調査した4つの支流に一斉に魚たちが逃げ込むはずです。
しかし、逃げ込んだとわかったのが4つの支流のうち2つであったことから、魚は洪水時、手近な支流にとりあえず逃げ込んでいるわけではなさそうです。
魚は洪水時には、基本的には川底にある障害物に身をふせ、殆ど移動せずに洪水をやり過ごすそうです。
当時北海道大学の牧口博士らが10匹のヤマメ(サラマオマス:20-30cm)に発信器をつけたところ、大型台風による大洪水にも関わらず、1匹も流されることなく、いつもと同じ場所に留まっていたそうです。わずか20-30cmの魚が3mを越える大氾濫でもじっと耐えられることに驚きました。この河川は大型の石が多く、逃げ込むスペースが十分に存在したのかもしれません。洪水で河床の礫(レキ)まで流されるような場合だと、隠れ家と共に全て流されてしまいます。本研究で用いたサラマオマスは分布の最南端に生息する貴重なサケ科魚類です。台風(洪水)の多い地域に特別に適応している可能性もあります。
つまり、すべての魚が支流に避難しているわけではなく、逃げ込むスペースが十分なようなら、その場に身をとどめているわけですね。
他にも、洪水に強い魚もいれば、弱い魚もいるらしいです。
確かに増水時に大型が釣りやすくなる
というわけで、洪水時に魚が支流に逃げ込むということは、それだけポイントが絞りこめるため、釣り人にとっては好都合なようです。
こうした研究結果を見て、僕が考えたのはたった一つ。
それなら、普段は釣れない川に避難してくる大型魚がいるのでは?
ということです。
魚が釣れないと言われているような細い支流であっても、洪水時には一気においしいポイントに早変わりする可能性が高いということ。
札内川水系だけでみても、オショロコマが一匹も居なかった川に一気に押し寄せているんですから、普段は魚が居ないはずの所に急に出現してくるかもしれない。
つまり、ロマン一発大勝負ができるワンチャンス。
釣れない釣れない言われた川なら、当然先行者なんか無し。
ところがそこで、まさかまさかの一撃ドカン。
そんな逆転ロマン溢れるハリウッド映画的ドラマティックフィッシングができるチャンスが到来するってわけです。
まぁ僕的には、先行者を避けて釣りができるってのが良いですよね。
洪水後はチャンスってことで、人気河川じゃ釣り人が結構現れますから、そんな時でも不人気河川に出向いたら魚が結構居て釣りになるってわけです。
ただ、やっぱりすべての支流じゃないわけで、そこは洪水時に釣りをして魚が上がってきているか調べて回るしかないですね。
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